ナツ子:先生、何かお話して。お話。
恵子 :お話したらちゃんと眠る?
ナツ子:眠る。ね。(マサル頷く)
恵子 :しょうがないわね。じゃあ、何のお話しにしようかな。
ナツ子:やった。
恵子 :青い鳥のお話ししてあげる。
ナツ子:青い鳥?知ってるよそんなの。
チルチルミチルのお話でしょ。
恵子 :ううん、違うの。ヒマワリ園の青い鳥の話よ。
ナツ子:ヒマワリ園の青い鳥?
恵子 :そうよ。
このヒマワリ園の庭に、大きなイチョウの木があるでしょう。
その中にね、青い鳥が住んでいるっていうお話し。
ナツ子:本当?ナツ子は見たことないよ。
恵子 :誰も見たことはないの。青い鳥は飛ばないのよ。
ナツ子:鳥なのに飛ばないの?
恵子 :そう。その青い鳥が飛ぶ時はね、
翼から金の粉を振り撒くの。
幸せの金の粉を振り撒かれた人達は幸せになれるっていう
言い伝えがこのヒマワリ園にはあるのよ。
ナツ子:それがあのイチョウの木の中に?誰が作ったの、そんな話。
恵子 :さあ、それは私もよく分からないけど・・・。
何年か前にね。
なっちゃんやマサルくんみたいに、
このヒマワリ園でずっとひとりぼっちだった女の子がいたの。
みどりちゃんっていうのよ。
その子はお母さんが仕事で忙しい上に、
その子もお母さんもとても病気がちだったの。
みどりちゃんはとてもお母さん思いで、
自分も辛いのに、お母さんが元気になるようにって
毎日イチョウの木に登っていたわ。
お母さんのために、青い鳥を探しにね。
ナツ子:幸せの金の粉がほしかったのね。
それで、青い鳥は見つかったの?
恵子 :ある晩、みどりちゃんのお母さんが、
病気で亡くなったという知らせが入ったの。
ナツ子:なんだ。いなかったんじゃない、青い鳥なんて。
恵子 :その知らせを告げようと、
私も他の保母さんたちも、みどりちゃんを探したの。
だけど、みどりちゃんはどこにも見つからなかった・・・。
その時、何が起こったと思う?
ナツ子:何がって?
恵子 :あのイチョウの木からいっせいに金の粉が舞いだしたの。
ナツ子:ええっ
恵子 :金の粉はたちまち私たちを覆って・・・・
嘘みたいな光景だったわ。
ナツ子:それで?それでみどりちゃんはどうしたの?
恵子 :みどりちゃんは、
そのイチョウの木の中で静かに眠っていたわ。
両手に一杯金の粉を握り締めて・・・。
ナツ子:死んじゃってたの。
恵子 :・・・先生ね、誰かの作った青い鳥のお話なんて、
信じてなかったの。だけど、本当だったのよ。
ううん。みどりちゃんが本当にしたのよ。
ナツ子:みどりちゃんは、青い鳥にあったのね。
きっと。青い鳥が、みどりちゃんを大好きなお母さんのもとへ
連れていったのね。
恵子 :そうね。
それから、このヒマワリ園にはこれといった不幸もなく、
みんな幸せに暮らしているわ。
ナツ子:素敵なお話し。
ねえ先生、青い鳥は、
あのイチョウの木の中にまだいると思う?
恵子 :さあ・・・だけど先生は信じているわ。
青い鳥はあのイチョウの木の中にいて、
ここのみんなを見守っていてくれてるって。
ナツ子:私も信じる。
恵子 :さあ、じゃ、これでお話はおしまい。
今日はもう眠りましょ。
先生おふとんしいてくるわ。
−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−
これは、私が高校2年の時、高校演劇の大会で上演した
「ア・リトル・ハピネス」
の脚本の一部です。
ヒマワリ園と言う、託児所が舞台になっています。
私はそこに通う、マサル君と言う自閉症の男の子役でした。
上のシーンにも・・・
セリフは無いけど出演していました(笑)
ゴスペラーズの新曲が
「青い鳥」と言うのを知って、
昔の台本を引っぱり出してきたのデス。
ゴスペラーズの曲はどんな歌詞なのか知らないけど、
どんなメッセージが詰まっているのか知らないけど、
私が
「青い鳥」と聞いて思い出した
私の大切な思い出を、
みんなにも読んでもらいたいなぁーなんて思ったのデス。
さて。
この物語。ラストはこんな感じになります。
−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−
──その時、空からいっせいに金の粉が舞い降りてくる。
イチョウの木の上に、大人たちの上に、金の粉が振ってくる。
キラキラ キラキラ光ながら、金の粉は全員を覆っていく。──
恵子 :金の粉だわ・・・あのときと同じ。
ナツ子:金の粉よ。
マミ :金の粉。
マサル:青い鳥が飛んだんだ・・・。
ナツ子:みて!リリーが。
マサル:リリー!リリーが降らせている、リリー!
マミ :じゃ、もしかしてリリーは、
三人 :青い鳥だったの?
恵子 :みどりちゃん!・・・
三人 :え?
恵子 :みどりちゃんね・・・みどりちゃんでしょう!
リリー:先生・・・
恵子 :あなただったの・・・。あなたが青い鳥だったの?
あなたがあの時、青い鳥になったの?
リリー:いいえ、先生・・・あの時、青い鳥なんていなかったの。
幸せを与える青い鳥なんて、初めからいなかったの・・・
───あの夜私は、イチョウの木に登って空の星を見ていた。
先生たちが私を探す声で、
お母さんが空へ登ったことがすぐ分かったわ。
そうしたら、お星様が、大好きなお母さんの顔に見えてきたの・・・。
私は、青い鳥に連れて行ってもらったんじゃない、
私の意志で空に登ったのよ。
これからずっとお母さんと一緒にいられるように・・・。
そして私は星を掴んだの。
両手に一杯星を掴んで、私は空へ登って行ったの・・・。
・・・青い鳥ってね、探しても、いるものじゃないのよ。
だけど、皆それぞれ、気付かないけど近くにいるものなの。
マサル:リリー・・・・
リリー:だから、それに早く気付くように、
あなたたちに 私の掴んだ星を分けてあげる・・・
幸せになれるように、皆、幸せになれるように・・・。
誰もが持っている一つの小さな幸せに、
早く気付いてくれますように・・・・・・。(消えて行く)
恵子 :─────仕事で成功する事、お金がいっぱいあること・・・
それらは確かに嬉しい事ではあるけれど、
幸せっていうことは、
愛する人がいて、愛してくれる人がいて、
自分の居場所が愛する人の心の中にあってこそ、
成り立つものなんじゃないかしら・・・
夫婦にしても、友達にしても、親子にしても・・・。
全員がハッピーエンドの絵で浮かび上がる。
リリー、子供っぽく笑っている。
空に満天の星。
どうやら 青い鳥──ア・リトル・ハピネス──と言うものは、
ココロの中に住む鳥のようである。
山梨英和高等学校 演劇部上演脚本
「ア・リトル・ハピネス」より
ミナサンも近くにいる青い鳥「あ・りとる・はぴねす」に
早く気付きますように・・・。
追記。
ブログのタイトルが「あ・りとる・はぴねす」なのは
コノ脚本からとったのです。